明日が祝日で助かった。
週明け早々から仕事へのやる気が無かったから。
雨で気圧が低いからか、それとも帰省明けで休みボケしているのか、頭がぼんやりして何かを始める気になれない。
いつもなら朝兼昼食に食パンを焼くが、それすらも億劫で、実家から持たされた焼き菓子の詰め合わせのうち、パウンドケーキを選んで食べた。

レーズンの断面がキラキラしていてきれい。
ドライフルーツやナッツがぎっしり詰まっているので、一口ごとに触感が変わるのが楽しい。
甘いもの、とりわけ焼き菓子のいいところは、何にもできない日や、どうしようもなくがんばれない日でも、今日という日がたちまち思い出になるところだと思う。
そんな焼き菓子を自分で作ることに憧れがある。
実家を出てからもう十年が経つけれど、その間ずっとオーブンが欲しいと思っていた。
けれど本気で手に入れようとはしなかった。置く場所がないとか、オーブン以前に調理器具が揃っていないからとか、趣味にするほどお菓子作りは上手くないからとか、理由を並べて先延ばしにしてきた。
焼き菓子ひとつあれば、こんなにも簡単に幸せになれるのに。
わたしはいつも憧れからわざわざ距離を取ろうとする。
何かを欲しがる自分の姿が嫌いなのだ。手に入れても、それをうまく使いこなせなかった自分の姿を想像してしまうから。
ところで、今回実家に帰ったのは、恋人がわたしの母に結婚の挨拶をするためだった。
母はあっさりと私たちの結婚を認めてくれたあと、「あんた昔は“結婚しない”って豪語してたんだよ」と笑っていた。笑い話にされたのは少しだけ居心地が悪かった。
だって本気でそう考えていたから。
先々月、プロポーズされるその瞬間まで、結婚は自分には起こらない出来事だと信じていた。
誰にも「選ばれない」という前提で生きてきた。
慎重だったわけではなく、期待した自分が否定される場面を想像するのが怖かったんだろう。
オーブンのことも、たぶん同じだ。
わたしなんかでも可能性がある、という考えを最初から排除していた。そうやって理由を積み上げながら、わたしは自分の可能性を、ずいぶん早い段階で見限っていたのだと思う。
今度こそ本当に叶えられたらいいなと思うし、叶えられる気もしなくもない。
かつては自分には起こらないと決めつけていた結婚が、気づけば現実の出来事になっていたのだから。わたし思っているより、可能性とは図太くしつこい。
眠れない夜にパウンドケーキを焼いたり、週末に焼いたクッキーを毎日少しずつ食べたり、クリスマスが近づいたらシュトーレンなんか焼いちゃったり。焼き菓子がぎゅうぎゅうに詰まった箱を眺めながらそう企んでいる。